(7) 遺伝子工学用試薬

生命現象を科学的に解明し操作することは、人間の永遠の目標の一つであろう。生命現象を司る遺伝子に関し、1953年(昭和28年)ワトソンとクリックが遺伝子を形成しているDNA(デオキシリボ核酸)の2重らせんモデルを提出して以来、わずか30~40年で遺伝子組み換え技術を用いた医薬品やホルモンなど有用物質が開発されている。このDNAを切ったり、つけたりすることにより、今や新しい機能をもった有用な生物をも作りだし、医薬品ばかりでなく農作物の品種改良や微生物による有用物質の生産研究等にも盛んにこの遺伝子工学は用いられている。
遺伝子工学用試薬は、遺伝子組み換え用試薬、DNA構造解析用試薬、DNA合成用試薬など多くの種類が市販されている。

遺伝子組み換え用試薬

遺伝子組み換えのプロセスには、遺伝子の分離、解析、改変(組み換え)、さらにこの改変された遺伝子をプラスミド等により生物細胞に戻し、その遺伝子情報を発現させる一連の操作が含まれている。この操作のなかで重要な試薬である酵素には、DNAを切る制限酵素、DNAどうしを連結するDNAリガーゼ、RNAからDNAを合成する逆転写酵素などがあり、多数の酵素が市販されている。

種別 試薬例
種 別制限エンドヌクレアーゼ 試薬例Alu I 、Ava I 、Ava II 、Avr I 、BamH I 、Cla I 、EcoR I 、EcoR V 、Hind III 、Mbo I
種 別単鎖特異ヌクレアーゼ 試薬例ヌクレアーゼP,S,PHy
種 別エキソヌクレアーゼ 試薬例エキソヌクレアーゼ III (E.coli)、エキソヌクレアーゼ III (E.coli、K-2)
種 別ポリヌクレオチド
キナーゼ
試薬例T4ポリヌクレオチドキナーゼ
種 別ポリヌクレオチド
ホスホリラーゼ
試薬例ポリヌクレオチドホスホリラーゼ(Micrococcus luteus、Type15)
種 別DNAポリメラーゼ 試薬例DNAポリメラーゼ I (E.coli)、DNAポリメラーゼT3,T4,T7
種 別RNAポリメラーゼ 試薬例RNAポリメラーゼSP6、RNAポリメラーゼT4、RNAポリメラーゼ(E.coli)
種 別DNAリガーゼ 試薬例T4DNAリガーゼ、DNAリガーゼ(E.coli)
種 別RNAリガーゼ 試薬例T4RNAリガーゼ

DNA合成用試薬

化学的なDNA合成は、合成法の改良および自動化により急速に進歩し長鎖(100塩基以上)のDNAでも高収率で合成できるようになってきた。DNA合成装置は、β-シアノエチルアミダイド法(固相法)が用いられているためコントロールドポアーグラスの水酸基にヌクレオシドの3'位にエステル結合した試薬なども販売されている。

試薬例
試薬例ヌクレオシド、ポリヌクレオチド、保護ヌクレオチド、β-シアノエチルホスホアミダイト、りん酸化剤

DNA構造解析用試薬

DNA塩基配列(一次構造)の決定には、Maxam-Gilbert法とジデオキシヌクレオチド法(改良Sanger法)がある。現在、DNA塩基配列の決定は後者の方が一般的によく用いられている。ジデオキシヌクレオチド法は、塩基配列を決定する一本鎖DNAを鋳型としてDNA反応系を4種類用意し、各反応系には基質として4種類のdNTP(デオキシヌクレオチド3リン酸)とおのおの異なる1種類のddNTP(ジデオキシヌクレオチド3リン酸)を適当な濃度比加えておく。そのときddNTPが取り込まれたところは、3'位にOH基がないためDNAの伸長が停止し特定の塩基で切れた様々な長さのDNA断片が得られるので、これを用いて電気泳動により塩基配列を決定する。

試薬例
試薬例M13プライマー、32Pデオキシヌクレオシド、35Sデオキシヌクレオチド、32PddATP

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